歯を失われた状態を治療せずに放置すると、口の中はどのように変化するのでしょうか?
“歯が一本ないくらいではそこまで困らないのでそのままにしてしまった”という話をよく聞きますが、その油断は、これから述べることのすべての始まりと言ってしまっても大げさではないかもしれません。
ここでは、最も最初に失われやすい場所である下顎第一大臼歯(下の奥から二番目の歯)が無くなった場合を例にとって説明してみましょう。
歯が抜けた状態を放置すると、数か月から数年の歳月を経て、イラストのように、奥の歯は手前に倒れ(傾斜)、抜けた歯と噛み合っていた上の歯は下に落ちてきます(挺出)。
歯が動いてしまうと、噛んだときに動いてしまった歯同士が強くぶつかるようになり、大きな物理的ダメージが加わるリスクが非常に高くなります。
更に、傾斜や挺出により生じた大きな段差や鋭角になった部分に、汚れが詰まり不衛生になりやすくなる領域が出現します。
歯がプラーク(歯垢)や歯石などに汚染されてしまうと、虫歯や、歯の周囲の骨を溶かしてしまう歯周病という病気を引き起こすリスクが非常に高くなってしまいます。
≪トピック≫
歯周病って何?
ではここでいう歯周病とは一体何なのでしょうか?聞いたことはあるけど、あまり詳しくは知らないという方が多いのではないでしょうか?
ここではポイントだけお話しますが、その前に歯周病を理解するために必要な基礎知識のお話をします。
そもそも歯はなぜ固いものを噛んでも揺れ動くことなく、すりつぶすことができるのでしょうか?
それは、歯槽骨という顎の骨に支えられているからなのです。歯ぐきが歯を支えているわけではありません。いくら歯が固いといっても、同じくらいの強度を持つ支えがないと機能しません。
たとえば、釘を柔らかい土に打ってもぐらついてしまって何の支えにもなりませんよね?固い木に打つことで、支えとしての役割を果たします。それと同じで、歯が固いものを噛めるための大前提として、支える骨がしっかりしていることが必須となるのです。
歯周病とは、歯に付着する汚れ、または異常な負荷(前述)が原因で、歯を支えている大切な骨が溶けてなくなってしまう(骨の吸収)病気のことをいいます。治療をせずに放置し重症化すると、歯の支えとなる骨がほとんどなくなってしまい歯がグラグラになり、最終的に歯が抜け落ちてしまうこともあります。
その経過をイラストで見ていきましょう。
以上が歯周病の説明となります。
このように、傾斜や挺出を起こした歯は非常に大きなダメージを受けるリスクが高いです。この状態のまま放置すると、歯の寿命が大幅に短くなってしまうことがほとんどです。
更に、このような状態では右奥歯でしっかりと噛むことができないため、反対側である左の奥歯や、前歯などに、その負担を求めることになるのが一般的です。
その場合、動いてしまった歯のみならず、まったく関係のない反対側の歯や、前歯にまで噛む力を負担させるため、それらの歯の寿命にまで影響を及ぼす可能性が高くなってしまいます。
イラストのように歯が動いてしまったことが原因で歯が抜けてしまった場合、右側で噛むことは難しくなります。
結果として左の奥歯に負担が集中し、左奥歯の寿命に大きな影響が出る可能性が高くなります。
また、更にその状態を放置して左奥歯も失ってしまった場合、前歯でしかものを噛むことしかできなくなります。しかし前歯は支えである根が細く、本来最初の一口、物を噛み切る程度の力に耐えられるような強度しかありません。
強度の少ない前歯のみで噛むことを続けていれば、奥歯よりもさらに短い期間でで状態が悪化し、歯が失われてしまう可能性が高いです。その結果、若いうちに総入れ歯になってしまうこともあります。
たった一本歯が無くなった状態を放置してしまったことで、このように連鎖式に歯が失われていく可能性が高いのです。
歯を失ってしまったら、できるだけ速やかに代わりとなる人工の歯を入れることで、噛む機能を回復するだけでなく、歯の移動も防ぐことになり、歯の連鎖式の喪失を事前に予防することができます。